録音は、聞き直して正確に書けるのが利点です。一方で、声は本人そのものでもあります。録ること、残すこと、文章にすることのそれぞれで、本人の意向を確かめながら進めます。
録音する前に、許可をもらう
黙って録音せず、先に「録音してもいい?」と聞きます。そのとき、次のことも伝えます。
- 何のために録音するのか(例:聞き直して、正確に書くため)
- 誰が聞くのか
- どこに保存するのか
- いつ消すのか
「止めて」と言われたら、すぐに止めます。録音を断られたら、メモで聞けば十分です。
録音には、話に出てきたほかの人のことも入ります。本にするときは、その人への配慮も必要です。
保存のしかたにも気をつけます。クラウドと同期するフォルダや、家族で共有している端末に置くと、ほかの人が聞ける場合があります。使い終わったら消す日を、先に決めておくと安心です。
- 録音してよいか聞いた
- 目的・聞く人・保存する場所・消す時期を伝えた
- 「止めて」と言われたら止める、と伝えた
話し方の特徴を、どこまで残すか
方言、口ぐせ、言い直し、「うーん」「あのね」のような間。こうした話し方の特徴は、その人らしさでもあります。
「」の中(引用)は、話したままを残すのが基本です。ただ、方言を標準語にするか、言い直しや間を省くかは、本人の意向で決めます。本人から「読みやすくして」と言われることもあります。
決めた書き方は、章の中でそろえます。「この章では、言い直しは省いています」のように、「この章について」のページに書いておくと、読む人にも伝わります。
引用と要約を分ける
- 引用:話した言葉を一字一句そのまま、「」に入れて書くもの。
- 要約:聞き手がまとめた内容。「」には入れません。
| 元の発言 | 引用として書く | 要約として書く |
|---|---|---|
| 豆腐を手でくずして入れてた。包丁を使わないで、手で、ぎゅっと。それは覚えてる。 | 「豆腐を手でくずして入れてた。包丁を使わないで、手で、ぎゅっと。」 | 豆腐は、包丁を使わずに手でくずして入れていた。 |
(例は、説明用の架空の見本から取っています)
- 引用を少しでも変えたら、引用としては出しません。「」を外して、要約として書きます。
- 要約に、話していない気持ちや理由を足しません。たとえば、話の中にない「だから」を足すと、因果関係を作ってしまいます。
- 迷ったら、引用で残すほうが本人の言葉を守れます。
聞き取れないところ
- 推測で埋めずに、〔聞き取れない〕と書きます。
- 録音のどのあたりか(例:12分30秒ごろ)をメモしておくと、あとで聞き直せます。
- 人や土地の名前は聞き違えやすいので、〔要確認〕として本人に確かめます。
- 本人に聞いても分からないときは、無理に書きません。見本では、聞き取れない一言のあとに続く「だから」を、原稿では使わなかった例を載せています。
文字起こしやAIを使う場合
使う前に、サービスの利用規約やプライバシーポリシーを確かめます。入力した音声や文章が保存されるか、サービスの学習(改善)に使われるか、どこで処理されるか。本人には、どのサービスで文字にするかを伝えて、了承をもらいます。話の中には、ほかの人の情報も含まれます。
個人情報保護委員会は、一般の利用者に向けて、生成AIサービスに入力した個人情報が機械学習に使われ、不正確な内容で出力されるおそれがあること、応答に不正確な内容が含まれることがあること、提供する事業者の利用規約やプライバシーポリシーを十分に確かめて判断することを挙げています(生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について、2023年6月2日)。
病気やお金、家族の事情など、特に慎重に扱いたい話は、外部のサービスに入れないという選び方もあります。
AIに頼めることと、頼まないことを分けておきます。
| 頼めること | 頼まないこと |
|---|---|
| 文字起こしの下書き | 話していない出来事・気持ち・会話・景色を書き足すこと |
| 表記のゆれ(例:「子供」と「子ども」)の洗い出し | 引用(「」の中)を言い換えること |
| 本人に確かめたほうがよい箇所の洗い出し | 矛盾する話を、都合よく一つにまとめること |
| 章立ての案 | 聞き取れないところを、もっともらしい言葉で埋めること |
AIが出した文章は、下書きとして扱います。必ず元の録音と照らし合わせ、違うところは録音のほうに合わせます。
有料の文字起こしサービスの例として、WITH TEAM AI文字起こし広告があります。使う場合も、上の注意のとおり、料金と、音声の保存期間・削除のしかた・学習への利用を利用規約とプライバシーポリシーで確かめ、本人の了承をもらってから使ってください。
なお、このサイトの1章づくりは、入力した内容をAIを含む外部のサービスに送りません。
本人への確認
- 原稿を印刷して読んでもらうか、読み上げて聞いてもらいます。
- 「」の部分に印をつけ、「ここは話したままの言葉です」と伝えます。
- 書いてよいか、意味が変わっていないか、名前や年月、ほかの人の情報、見せる相手を確かめます(キットの「本人確認チェックシート」)。
- 直したら、原稿の版を1つ進めて(第2版など)、直したところをもう一度確かめます。
最後に、次のことを確かめておきましょう。
- 録音の許可をもらい、保存と削除のしかたを決めた
- 引用は一字一句そのまま。変えたところは「」を外した
- 聞き取れないところを推測で埋めていない
- AIを使ったところは、元の録音と照らし合わせた
- 本人に確認した